知っておきたい連帯保証人の基礎知識

 (文・吉田猫次郎)


平たく言えば、「連帯保証人」は「お金を借りた人(=主債務者)」と同じ責任を負わされます。

主債務者のほうが責任が重く、連帯保証人のほうが責任が軽いということは、残念ながらありません。

主債務者は「自分がお金を借りた」という当事者意識がありますが、これに対し、連帯保証人の多くは、「自分はただ保証しただけだ」というふうに、与えられた責任の重さに気付いていない場合が多く、また主債務者と比べて平和な暮らしをしており、債権者と折衝するような場面もほとんどないため、いざ主債務者が延滞し始めて債権者から連帯保証人あてに請求が来ると、必要以上に気が動転し、パニックに陥る傾向があります。 そうならないように、連帯保証人になった人は、最低限の知識を身につける必要があります。

以下、できるだけ簡単に、連帯保証人の基礎知識について書いてみましょう。

@ 法律上、「保証人」にはどのような種類のものがあるか?

ひとくちに保証人といっても、法律上、我が国には大きく分けて3種類の保証人があります。

民法上の「保証人」「連帯保証人」と、特別法に属する「身元保証人」の3つです。

A.ただの「保証人」

 「保証人」と「連帯保証人」とでは、意味がまるで違います。たとえば、「保証人」の場合、主債務者がまだ支払い能力があるときは、保証人は、「主債務者のほうへ請求してくれ!」と突っぱねることができます。これを法律用語で「催告の抗弁権」(民法452条)といいます。 また、「主債務者に返せる能力や財産などがあることを証明することができれば、そこから取り立てしてくれ!」と突っぱねることができます。これを「検索の抗弁権」(民法453条)といいます。 

またもうひとつ、「分別の利益」(民法456条)といって、複数の人が保証人となった場合に、各保証人は主債務を平等 に分割した額だけ保証すればよいことになっています。 つまり、単なる「保証人」ならば、1千万円の債務に対して2人の保証人がいれば、各保証人は実質的に500万円だけ保証していることになりますので、ヘンな話、保証人が多ければ多いほど、各保証人の負担は軽くなるといえます。また、保証人たちは、主債務者が明らかな返済不能にならないかぎり、債権者から請求されることもないのです。

金融機関からすれば、「保証人」だと取立てのときにちょっと厄介ですよね。なぜなら、主債務者が返済を滞ったとき、主債務者にきちんと督促して、そのうえ返済能力や資産などが無いことを確認してからでないと、保証人への請求ができないわけですから。 だから金融機関は「連帯保証人」を求めるのですね。

「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」。 この3つは、連帯保証人制度を考えるうえでは是非とも知っておいてもらいたい法律用語です。

B.連帯保証人

金融機関が融資のときに求めてくる保証人というのは、まずほとんどがコレです。

保証人ではなく、連帯保証人。

連帯保証人になると、前述した「催告の抗弁権」も「検索の抗弁権」持たないとされています(民法454条)。 また、「分別の利益」も持たないとされています。 したがって、主債務者が返済不能であろうとなかろうと、資産をタップリ持っていようと、そんなことは関係なく、債権者は連帯保証人に全額をいつでも請求できるわけです。 「いつでも」「全額を」「主債務者をすっ飛ばして」請求できるのです!!

これはもはや、保証人というよりは、債務者といったほうが近いですね。

貸し手側としては、いつでも主債務者をすっ飛ばして連帯保証人に直接請求できますので、主債務者へ返済に対する緊張感を与え続けることができますし、主債務者が返済を遅延したときに、いちいち主債務者の資力を調べなくても、即時に連帯保証人に全額請求できるので、債権回収する上ではメチャクチャ効果抜群です。

こんなに貸し手にとって有利な制度があるのだから、もし私が金貸しだったとしても、やはり借り手に「連帯保証人」を求めるでしょうね。「保証人」を求めず・・・。 でも、借り手側としてはたまったものではありません。

連帯保証人制度が人権侵害だとか前時代的だとか奴隷制度のようだとか言われるのも頷けますね。



(イラスト・神田 武勇兵)

C.身元保証人

もうひとつ、民法ではありませんが、雇用契約における身元保証の範囲を規定した「身元保証ニ関スル法律」 という法律があり、これは保証範囲がかなり限定されていて、また解除も比較的しやすい制度なので、連帯保証人制度を見直す上で比較検討の材料として研究してみる価値がありそうです。

身元保証人の場合は、保証期間が原則3年間、最長5年間までと定められています。

また、被用者(雇われている当事者)が、「業務上不適任または不誠実な行跡があり、保証責任が発生する恐れがあることを知ったとき」や、「任務または任地を変更したことによって保証責任が加重または監督が困難になるとき」には、雇い主は「身元保証人」にこれを通知する義務があり、身元保証人はこのような事実を知って負担が重いと判断したときには身元保証契約を解除できるとしています。 また、報告を受けなかった場合、報告義務違反として、保証範囲の負担を軽くすることもできます。 連帯保証人とは大きな違いですね。

* 我が国の場合、このように3種類の保証人制度があるにもかかわらず、実際に金融や不動産賃貸の現場で利用されているものの多くは、「連帯保証」です。 「ただの保証人」や「身元保証人」は、さほど多く使われていません。これはひとえに、我々債務者側が「連帯保証」に抵抗感を示さず、従順にハンコを押してしまうことが多いからだと言えます。 金融機関の横暴を批判するのは簡単ですが、横暴しやすい土台を作ってしまったのは我々であるとも言えます。そのへんを自覚しつつ、本来あるべき姿をじっくり考えてみましょう。


A その他の保証(人)

D. 根保証

 保証人や連帯保証人に「根」がついて、極度額と期間が設定されると、その極度額内・期間内であれば、主債務者は継続的に借入と返済を繰り返せます。保証人はそれら全ての保証をすることになります。 これが根保証です。 根保証契約をすると、借り手と貸し手はいちいち保証人を交えて契約書を細かく取り交わさなくても迅速に借入と返済を繰り返すことができるので、事務手続きが省略化されて大変便利だというメリットがあります。反面、保証人にとっては(極度額が決められているとはいえ)借主がいくら残債務を残しているか、それが増えているのか減っているのかわかりにくいという不安があります。

 少し怖い例をあげましょう。

 結城さんは、吉田さんが商工ローン大手S社から300万円借りる時の連帯保証人になりました。しかし、借りたのは300万円でしたが、近い将来追加融資を受ける際にまた結城さんに足を運んでもらってハンコを押してもらうのは面倒なので、手間を省くために、結城さんに1000万円の根保証(連帯根保証)をしてもらいました。 もういちど言います。300万円借りたのに1000万円の根保証です。

 1000万円の根保証をしてもらったので、吉田さんは次に商工ローンS社から追加融資をしてもらうときに、結城さんにハンコを押してもらう必要もなく、報告する必要もなく、比較的あっさりと貸してもらうことができました。 こうして2度目、3度目の追加融資を受けているうちに、いつしか吉田さんの借入残高は1000万円になっていました。 一方、結城さんのほうはというと、300万円の保証をしただけという気持ちが強いままでした。

 ある日、吉田さんは夜逃げしてしまいました。 そしてその数日後、結城さんのところに商工ローンS社から電話がかかってきました。

「吉田さんが夜逃げしちゃったんですよ。結城さんは連帯保証人ですから、代わりに全額返してもらうことになります。残債は1000万円です。」 と。

 結城さんはビックリです。 300万円しか保証しなかったつもりが、1000万円だなんて・・・。

 もちろんS社は初回の契約時に、重要事項説明書を渡すと同時に、口頭でも「根保証とは〜です」と説明します。 最近はそれが半ば義務付けられています。 しかし、初めて他人の保証人になった結城さんは、それが今ひとつピンときませんでした。意味としては理解できたけれども、「だけど借りるのは300万円だけなんでしょ?」 という意識が強かったのです。

 根保証ではこういうことがよく起きるので、もしどうしても根保証しなければならないときは、くれぐれも覚悟の上で臨みましょう。

 尚、根保証をよく使っているのは商工ローンだけではありません。銀行も比較的よく使うし、一般的な商取引(小売店と問屋の商品仕入の基本契約書など)でも使うことがあります。それもほとんどが「根保証」ではなく「連帯根保証」です。 中には「根保証」とも「連帯保証」とも書いていない場合もあります。たとえば、『丙は乙の債務を連帯して保証する。極度額は1億円。契約期間は3年間。』 などと書いてあれば、丙は立派な連帯"根"保証人です。 注意してください。

E. 包括根保証

 包括根保証とは、上記の根保証に「期限」と「極度額」が定められていない、青天井状態の根保証のことをいいます。保証人は契約当初に一度ハンコを押してしまえばそれで最後、以後は借り手と貸し手がいつまで無限に取引を繰り返しても、保証人はその間ずっと保証人でいなければなりません。 また、我が国では「保証人」とはほとんどの場合「連帯保証人」のことを指すのが実情なので、実際には包括連帯根保証となるわけです。 恐ろしいですね。 ただの連帯保証でも怖いのに。

 包括根保証はおもに、中小企業がメインバンクから融資を受ける際に使われていました。保証人の多くはその企業の代表者個人でしたが、中には代表者の親戚(役員でも社員でもない親戚。つまり会社から見れば第三者。)などがなっている場合も少なくありませんでした。 メインバンクと包括根保証の契約をすると、後で追加融資を受けるときに非常に迅速にできるので、長期証書貸付・短期手形貸付など数口にわたって頻繁に借入を繰り返している企業にとっては、まあ便利な存在でした。 しかし、よく考えると、包括根保証に疑問を持つことがない間は便利に感じるけれども、いざ倒産の危機に瀕してしまうと、これがあるばかりにメインバンクから借りた全ての債務を個人として連帯保証しなければならなくなります。

 尚、包括根保証は2005年4月の民法改正により、めでたく撤廃となりました。(尽力してくださった立法関係者の方々に拍手!) どこがどう撤廃になったかというと、べつに六法全書のどこかに「包括根保証」という言葉が載っていたわけではなく、ただ民法465条2の2項で、貸金等の契約で個人が保証した場合には保証する上限を定めなければならなくなったのと、同じく465条3で、契約で定められた5年以内の期間に発生した債務のみ保証する(定めがないときは5年)ことになったことで、いわゆる「個人が」「青天井・無期限・無限度額の包括根保証を」できなくなったということです。 

 しかし、ふつうの根保証や連帯保証は手付かずのままです。ふつうの根保証やふつうの連帯保証でも充分恐ろしいことは前項までで説明したとおりです。 マスコミの中には個人保証と包括根保証とをゴッチャにしていると思われる記述も散見され、「包括根保証が撤廃になったからこれでもう安心だ」という論調も時々見られますが、とんでもありません。 保証人問題のほんの一部分が改善されたにすぎません。

 余談ですが、同年の民法改正により、他にも、保証契約は書面でしなけばならなくなったとか、条文がひらがな口語に変わって読みやすくなったという大きな変化がありました。 一度読んでみましょう。

F. 共同保証

 複数の人が保証人になることを共同保証といいます。 メインバンクや商工ローンでは、3人も4人も連帯保証人をつけることがありますが、あれは共同保証人ということになりますね。 

 前述しましたが、「(ただの)保証人」ならば共同保証している人どうしで責任を頭割りすることができます(=分別の利益)。が、これが連帯保証人になると、何人いても責任の範囲は主債務者と同等です。 仮に共同保証している連帯保証人が4人いて、借入額1000万円だとしたら、4人とも1000万円の責任を負うわけです。金融機関は4人のうち誰からでも、取りやすい人から取れます。 

G. 物上保証

 いわゆる担保提供のことです。 担保提供者のことを物上保証人とも呼びます。 よくいますね。 保証人にはなっていないけれども、担保だけ提供したという人。 たとえば、事業資金を1000万円借りたときに、田舎のお父さんが実家を担保提供してくれたとか。

 担保提供の場合、責任の範囲は担保提供分だけなので、最悪でも担保を競売にかけられるだけです。競売後に残債務が残っても、担保提供者にはそれ以上の請求は行きません。(ただし保証人になっていれば別ですが。)

H. その他

 以後は暇な時に更新します。

 新刊本『連帯保証人』(2006年8月10日発売)にも詳しく&わかりやすく書いていますので、保証人制度について体系的に知識を身につけたい方は是非御一読ください。


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